その他の病気
- ここでは、脳神経内科で扱う代表的な、末梢神経障害、脱髄疾患、神経変性疾患、筋疾患、代謝性神経障害、感染性疾患について解説いたします。
末梢神経障害
- 末梢神経(脳神経、脊髄神経、自律神経)が障害されて、顔面や手足の脱力・しびれ、便秘や頻尿などの自律神経障害を起こす病気です。
顔面神経麻痺
- 顔面の片一方が麻痺して目をつぶったり食事をすることが困難になる病気です。副腎皮質ステロイドを飲みながらリハビリテーションを行います。
三叉神経痛
- 片側の顔面に数秒~数十秒間のビリっとした激痛が走るようになります。てんかんの薬(カルバマゼピン、レベチラセタム、プレガバリンなど)を飲むことで30%ほどの方の症状は改善しますが、手術が必要になることもあります。
手根管症候群
- 手の付け根で神経が圧迫されて、早朝に手の親指側が痛んだりしびれたりする病気です。
- 薬物療法と手術療法があります。
糖尿病性ニューロパチー
- 神経障害は糖尿病三大合併症のひとつで、腎症や網膜症より早く(糖尿病になって5-10年)出現します。
- 症状は左右対称の両足のしびれが多いのですが、自律神経障害(便秘や立ちくらみ)、神経痛、脳神経麻痺、筋萎縮などが出現することもあります。
- 血糖を管理することで改善することが多いのですが、さらに薬物療法が必要なこともあります。
ギラン・バレー症候群
- 細菌やウイルス感染の後におこる末梢神経炎です。この炎症は細胞の表面に抗体というタンパク質がくっつくことでおこります。顔面、のど、手足のしびれと麻痺が主な症状ですが、抗体に対する治療とリハビリテーションを行うと、80%の方は後遺症なく軽快します。
ギラン・バレー症候群、フィッシャー症候群診療ガイドライン2013(外部リンク)
慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP)
- 運動麻痺や感覚障害が出たり治ったりしながら徐々に病状が進行する末梢神経炎です。
- 副腎皮質ステロイド、免疫グロブリン療法、血液浄化療法を組み合わせて治療します。
慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(患者さん向けパンフレット)
慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー、多巣性運動ニューロパチー診療ガイドライン2013(外部リンク)
MAG抗体陽性ニューロパチー
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徐々に悪化する末梢神経の病気で、手足の先がしびれて力が入りづらくなります。中年以降の男性に多いです。MAGとは末梢神経の髄鞘(電線のカバーに相当する部分)を構成するもので、MAG抗体によって髄鞘が障害されるため神経障害が起こります。骨髄腫を合併している場合があるので、血液検査などで定期的に検査しておく必要があります。
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慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチーCIDPに準じて検査や治療を行います。免疫グロブリン大量療法や血漿浄化療法(単純血漿交換)が推奨されていますが治療に反応しにくいことが多いです。リツキシマブという抗体産生を抑える治療薬も使用されますが、保険適応はありません。
家族性アミロイドポリニューロパチー
- トランスサイレチン(TTR)というタンパク質が全身に沈着する病気です。最近、このTTRタンパクを安定化する薬や、TTRタンパクの設計図であるTTR遺伝子からタンパクを作る過程をブロックする遺伝子治療(核酸医薬品)の有効性が証明され、これらによる治療が可能になっています。
(脳神経内科だからできること(一般の方へ).日本神経学会作成パンフレットより引用)
家族性アミロイドポリニューロパチーの診療ガイドライン(外部リンク)
シャルコー・マリー・トゥース病
- つま先から筋萎縮が始まって徐々に歩行が困難になる遺伝性の末梢神経障害です。
- 末梢神経の髄鞘(神経の表面のさやの部分)の形成に関与するPMP22(CMT1A型)、P0(CMT1B型)などの遺伝子異常の頻度が多いです。
- 根治療法はありませんが、ロボットスーツHAL®を用いたリハビリテーションの有効性が報告されています。
脱髄疾患
- 神経のさやの部分が炎症を起こすために生じる病気です。
多発性硬化症
- 脳・脊髄・視神経のあちこちに病変が多発するために、視力障害、運動障害、自律神経障害など様々な症状が出現する疾患です。
- 若い女性に多く、神経症状は悪化と改善を繰り返しますが、副腎皮質ステロイドと免疫修飾薬で治療をすることが可能です。
視神経脊髄炎
- 抗AQP-4抗体が脳血管と神経細胞の橋渡しをするアストロサイトに炎症をおこす疾患で、病変が脳・脊髄・視神経のあちこちに多発するので様々な症状が出現します。
- 副反応に注意しつつ副腎皮質ステロイドや免疫修飾薬で治療をします。
多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017(外部リンク)
多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017追補版―フマル酸ジメチル―(外部リンク)
神経変性疾患
- 神経細胞内に毒性を持った異常なタンパク質が集積して神経細胞が少しずつ死滅してゆく病気です。
運動ニューロン疾患(ALSなど)
- 運動ニューロン疾患は、脊髄や脳の運動神経細胞が減ることにより筋肉がやせてしまう病気です。
- 筋萎縮性側索硬化症(ALS)ではTDP-43というタンパク質が神経細胞に蓄積することが発病と関係することが分かってきました。ALSを発症しやすい遺伝的な要因も解明されています。治療に関しては、ALSの患者さんのiPS細胞を使って有望な薬の候補が見つかり、治験が開始されています。また、TDP-43に対する抗体治療の研究も行われています。
- 球脊髄性筋萎縮症では、男性ホルモンが病気の発症や進行に影響していることが分かり、患者さんでも男性ホルモンの働きを抑える薬の有効性が認められ実用化されています。
- 脊髄性筋萎縮症では、SMNというタンパク質が欠損しているため、遺伝子の働きを調節してこのタンパク質の量を増やす遺伝子治療(核酸医薬品)が実用化されています。
(脳神経内科だからできること(一般の方へ).日本神経学会作成パンフレットより引用)
脊髄小脳変性症
- 脊髄、小脳、脳幹の脳細胞が徐々に侵されて徐々に身体が不自由になる病気です。
- 約40%の方が遺伝性で、遺伝子の異常が主な原因だと考えられています。
多系統萎縮症
- 脊髄と小脳が徐々に萎縮して徐々に身体が不自由になる病気で、シヌクレインという異常なたんぱく質が脳内に蓄積することが原因であると考えられています。
- 症状に合わせた薬物療法とリハビリテーションを実施します。
脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018(外部リンク)
筋疾患
- 遺伝子異常、自己免疫反応、代謝異常などのために筋肉の構造が変化して筋力が低下する病気です。
デュシェンヌ型筋ジストロフィー
- ジストロフィン遺伝子の異常(エクソンの欠失や重複)が原因で男性は重症化します。
- 筋力維持のための治療と合併症(呼吸不全、心不全、脊柱変形)の治療を行います。
- 今後いくつかの核酸医薬が登場するので重症化することを防げるようになるかもしれません。
デュシェンヌ型筋ジストロフィー診療ガイドライン2014(外部リンク)
筋強直性ジストロフィー
- 筋強直が特徴の筋ジストロフィーです。
- 遺伝性で発症者のお子さんも50%の確率で発症します。
- 肺炎、転倒事故、不整脈、糖尿病、白内障などを合併しやすいので、定期的に検査を行い必要に応じて対症療法を実施します。
筋強直性筋ジストロフィー診療ガイドライン2020 (外部リンク)
周期性四肢麻痺
- 血清カリウム値の異常などが原因で、ときどき全身の麻痺が出たり治ったりする病気です。
- 遺伝性の場合もありますが、甲状腺機能亢進症によるカリウム値低下が原因であることが多いです。
- カリウム値を正常化させることで治療が可能です。
重症筋無力症
- アセチルコリン受容体という運動神経と筋肉の接合部に対する抗体が出現して、炎症がおこるために目の筋肉や全身の筋肉に力が入らなくなる病気です。まぶたが下がり、ものが二重に見えるようになったり、重いものを持てなくなります。免疫抑制剤などで治療をします。
代謝性神経障害
ビタミンB欠乏症
- ビタミンBが不足することでもの忘れ、ふらつき、手足のしびれなどの症状が出現します。
- ビタミンB欠乏の原因を調べながら、ビタミンBを補充することで治療をします。
微量元素欠乏症(亜鉛、銅、セレン)
- バランスのとれた食事ができないときに、味覚障害や歩行障害などの神経症状が出現することがあります。
- 血液検査で診断をして適切な食事メニューをご紹介いたします。
感染性疾患
- さまざまな病原体(寄生虫や細菌やウイルス)による神経障害です。
- 中でも細菌性髄膜炎と単純ヘルペス脳炎は、早めに治療を行わないと重大な後遺症が残る可能性があります。
細菌性髄膜炎
- 副鼻腔炎、中耳炎、敗血症、頭部開放創、開頭手術などが原因で、脳を包む膜の中で細菌が増殖する感染症です。
- 発熱、激しい頭痛、嘔気が出現し、重症の場合は全身けいれんや麻痺が出現し、昏睡状態になります。
- 可及的速やかな診断(頭部MRI、脳脊髄液検査、血液培養)と、充分量の適切な抗菌薬と副腎皮質ステロイドによる入院点滴治療が必要です。
単純ヘルペス脳炎
- 三佐神経節などに潜伏していた単純ヘルペスウイルス1型が再活性化して発症することが多い感染症です。
- 数日で発熱、頭痛、嘔吐、記憶障害、意識障害、けいれんなどを発症します。
- 可及的速やかな診断(頭部MRI、脳脊髄液検査、脳波)と、充分量の抗ウイルス薬と副腎皮質ステロイドによる入院点滴治療が必要です。
辺縁系脳炎
- 数日で記憶障害とけいれんが悪化していく脳炎です。
- MRIではしばしば大脳の側頭葉の内側に異常が出現します。
- 原因はウイルス(単純ヘルペスウイルスなど)、細菌、悪性腫瘍など様々ですが、近年は自己抗体*(抗NMDAR抗体、抗LGI1抗体、抗CASPR2抗体など)が続々と発見されています。
- それぞれ原因に応じた治療を行います。
*自己抗体:自分の身体に免疫反応を起こしてしまう蛋白質です。
プリオン病
- 中枢神経のグリア細胞の細胞膜に存在するプリオン蛋白(PrP)が、なんらかの原因で感染性を持つ異常プリオン蛋白になることで発症すると考えられている非常にまれな脳疾患です。
- 約80%は孤発性クロイツフェルト・ヤコブ病です。中年期に認知症とミオクローヌス(筋肉のピクツキ)が出現・急速に進行して1-2年で死亡します。
- プリオン患者からの臓器移植手術、脳脊髄液採取、針刺し事故などで感染する可能性があります。
HTLV-1関連脊髄症(HAM)
- ヒトT細胞白血病ウィルス(HTLV-1)の感染による脊髄疾患です。
- 両下肢のつっぱり感と麻痺と排尿障害が徐々に悪化します。
- 脳脊髄液検査で診断し、副腎皮質ステロイドやインターフェロンαで治療をします。